花火の余韻

花火大会から帰る、渋滞に巻き込まれたそのバスは、カップル達の密室だった。

花火の余韻に浸る彼・彼女達の、渋滞すらをも味方につけたようなその姿は、私にある種の劣等感を植え付ける。この感情は、どこから来る物なのだろうか。何時もの私には分からない事も、窓から見える花火の閃光が教えてくれた。劣等感は、惨めな境遇ではなく、物事を見極める力が不足している事に起因していたのだ。

彼・彼女達は恋という世界に生きる生命だ。一部のえっちぶっくが、行為という物の外側で描こうとしていたそれを、既に現実は、簡潔に、しかしながら綿密に描きあげていた。私が本に追い求めていた世界が、既に存在している。それに気付かなかった私という存在、それ自身に、劣等感を感じていたに違いない。

損得勘定を考えずに愛情を与えあう彼・彼女達の姿に感謝しよう。その姿は、人生に安堵を与えてくれる。

彼・彼女達に深い交流の場を与える花火大会に感謝しよう。その喧騒と熱気は、彼・彼女達に限らず、全ての者に力を与えてくれる。

そして、現実に感謝しよう。現実は、我々に人生という舞台を与えてくれる。