主よ

海底に飲み込まれつつある時、マズルを持つ少女は確かに、「キミとは海の底で出会いたかった」、そう言った。少女は、深海に真実を見たのだろうか。

深海に堕ちるその時、私は、無人島に建てた掘建小屋で少女と恙無く余生を暮らしている私の姿を見た。少女も見ていたであろうその世界は、暖かさで満ちていた。

深海にあるこの世界には、理不尽と狂気に満ちている。少女が何故、再会場所にあの理想郷ではなく、このディストピアを望んだかは分からない。もしかすると、この世界は、少女の想定していた目的地では無いのかもしれない。少女の目的地は、あの時見た、暖かさに満ちた世界で、この欺瞞に満ちた世界では無いのかもしれない。

私は、何の因果か、この争いに満ちた世界に辿りついてしまった。少女はあの土地に辿りつけたのだろうか。少女には、この世界に生きるという苦痛を味わってもらいたくはない。

苦痛を味わうのは私で十分だ。主よ、頼むから、少女に、これ以上の苦痛を与えないでくれ。